クラウドファーストとは?注目される背景、導入の効果、注意点を解説

政府が、これまでの「情報セキュリティや移行リスクへの漠然とした不安、不十分な事実認識等から、クラウドサービスの利用に前向きでなかった」状況を踏まえて、クラウドサービスによるコスト削減や、情報システムの迅速な整備など、さまざまな課題解決を進めるために「クラウド・バイ・デフォルト原則」を打ち出したことで、さらにクラウドファーストが注目されるようになりました。(出典:政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針 2021年3月30日 各府省情報化統括責任者(CIO)連絡会議決定)

政府の方針が示す通り、クラウドサービスを利用することで、システム構築に関するさまざまな課題が解決されることが期待されます。クラウドファーストとは何か、その効果や注意点について解説します。

クラウドファーストとは?

クラウドファーストとは、システムを導入するに際して、クラウドサービスを最優先で検討する考え方です。

クラウドサービスは、2006年にAWS(Amazon Web Services)、2008年にGCP(Google Cloud Platform)、2010年にMicrosoft Azureが、サービス開始しました。米国では、政府が、2010年に膨れあがる連邦政府のITシステムへの支出を削減するため、クラウドサービスへの移行促進策として、「クラウドファースト政策(Cloud First Policy)」(出典:Driving IT Reform: An Update)を掲げたことから、クラウドファーストの考え方が広まりました。

2019年にガートナーが予測した、2022年の国別のクラウド導入状況によると(出典:Cloud Adoption: Where Does Your Country Rank? )、クラウドコンピューテイングは、最初に米国に登場し、2015 年以来、クラウド導入のリーダーであり続けています。それに対して日本は、米国に7年以上後れをとっている抵抗国の一つに位置づけられています。その理由として、文化的な偏見や立法・規制上の障害などにより、日本の組織がクラウドを採用することを困難にしている、と述べています。

実際、2020年のガートナーの日本におけるクラウドコンピューティングに関する調査結果によると、日本におけるクラウドコンピューティングの導入率は平均18%で、日本企業へのクラウドの浸透が遅く、クラウドへのシフトを当たり前のものと思い始めている一方で、実際の導入には引き続き慎重な姿勢を示す企業が多く存在していると、指摘しています。(出典:プレスリリース「ガートナー、日本におけるクラウド・コンピューティングの導入率は平均18%との最新の調査結果を発表 」)

それが、2021年の調べでは、2020年調査から4ポイント増の22%で、日本でのクラウドコンピューティングの利用は次のステージに進んだことが明らかになった、と述べています。その背景の一つに、日本政府が、政府共通プラットフォームへのAmazon Web Services (AWS) の採用を発表したことがあげられています。日本企業が『頭で分かっても体が動かない』状態から、『頭で分かって体も動く』状態へと変化した表れ、と評しています。(出典:プレスリリース「ガートナー、日本企業のクラウド・コンピューティングに関する調査結果を発表」)

クラウドファーストが注目される背景

クラウドファーストが注目され、その結果クラウドサービスの利用が進んだ背景には、大きく次の2つの流れがあります。

DX推進などデジタル化を推奨する世の中の流れ

世にDXという言葉が浸透し始めると、企業や官公庁は、組織のDXを推進する部門を創設するなど、組織をあげてDXの推進に取り組む流れができました。2018年には、経済産業省が、「DXを推進するための新たなデジタル技術の活用とレガシーシステム刷新に関するガイドライン」を策定し、その流れを後押ししました。

IPA(独立行政法人 情報処理推進機構)が刊行した、「DX 実践手引書」によると、DXを実現するためのITのあるべき姿において、変化が激しく不確実な市場環境に俊敏に対応するために、求められるデリバリースピードに対応できる IT システムとなっていることが必要であるとし、そのためのシステム基盤に必要な要素として、拡張が容易であることと、環境構築やその停止が容易かつ俊敏であることをあげ、現在のところ、これらの要素を満たす最も有効な手段が、クラウドの活用である、と述べています。

このようにDXを推進するためのITシステムに、クラウドファーストの考え方で取り組む流れが生まれたことが大きな要因の一つとなりました。

政府のクラウドファースト「クラウド・バイ・デフォルト原則」

もう一つが、導入文でも述べた、政府のクラウドファーストへの取り組みです。ガートナーの指摘にもある通り、先進的な取り組みを進める企業から、クラウド導入が進む中、文化的な偏見や立法・規制上の障害から、官公庁においては、クラウドの導入に慎重な姿勢が続いていました。その方針を転換し「クラウド・バイ・デフォルト原則」を打ち出したことも、クラウド導入に弾みをつけました。

政府のクラウドサービス利用の基本方針において、クラウドサービスが危険だろうと思い込んではいけない、具体的な比較検討を行わずに、安易に判断することは避け、複数の事業者等からさまざまなサービスの選択肢の情報を得た上で、従来のバイアスを排して客観的に比較し、利便性、情報セキュリティ、コスト等の観点から、事実に基づき、適切に判断する必要があると、提唱しています。

「クラウド・バイ・デフォルト原則」についての詳しい解説は以下の記事をご参照ください。

政府が推進するクラウド・バイ・デフォルト原則とは?導入によって企業はどう変わる?

クラウドサービスの効果

クラウドサービス(パブリッククラウド)は、従来のオンプレミスに比べて、次のような効果が期待できます。

初期費用を抑えられる

オンプレミスの場合には、ハードウェアやソフトウェアおよびそれらの構築費用が、初期導入時に一括で必要になります。それに対して、クラウドサービスでは、契約後、毎月(あるいは毎年)の支払いになるため、初期費用を抑えることができます。

導入までの期間短縮

オンプレミスの場合には、ハードウェアやソフトウェアの選定や調達、構築のために、相応の期間が必要になります。それに対して、クラウドサービスの場合には、ハードウェアやソフトウェアは、クラウドサービス事業者が既に構築済みで、それ以外に必要なソフトウェアやアプリケーションのみ構築すればよく、導入に要する期間を短縮することができます。

運用の負担軽減

オンプレミスの場合には、ハードウェアやソフトウェアの運用も、すべての運用を自社で対応しなければなりません。それに対して、クラウドサービスの場合には、ハードウェアやソフトウェアの運用の一定の範囲を、クラウドサービス事業者が、サービス費用に含めて対応します。それらの運用を削減できるため、運用にかかる負担を軽減することができます。

クラウドサービスは、リソースの追加や変更も、容易に実施することができます。また、数ヶ月の試行運用することも可能なため、柔軟な運用が可能です。オンプレミスでは、リソースの追加や変更にも調達や構築の期間と費用が必要となり、運用上の負担となりますが、クラウドサービスでは、その負担を軽減することができます。

セキュリティ水準の向上

オンプレミスの場合には、ハードウェアやソフトウェアに加えてそれらに対するセキュリティ対策も自社で対応しなければなりません。それに対して、クラウドサービスでは、クラウドサービス事業者がセキュリティ対策を施しており、自社で一から構築せずとも、クラウドサービス事業者が提供する水準のセキュリティ対策を享受できます。

多くのクラウドサービスは、一定水準の情報セキュリティ機能を基本機能として提供しつつ、さらに、より高度な情報セキュリティ機能の追加も可能となっています。オンプレミス環境で情報セキュリティ機能を自社で構築するよりも、クラウドサービスを利用する方が、効率的に情報セキュリティレベルを向上させることができる場合もあります。

災害対策に有効

オンプレミスの場合には、ハードウェアやソフトウェアはもちろんのこと、それ以外に筐体やサーバーを設置する建物自体にまで、災害対策を講ずる必要があります。それに対して、クラウドサービスは、クラウドサービスを提供する事業者が、災害対策を考慮したデータセンターで構築されており、万が一の災害時にもシステムを利用できます。そのため、BCP(事業継続計画)対策としても有効です。

24 時間 365 日の稼働が必要なシステムにおいても、過剰な投資を行うことなく、災害の発生時にも継続運用が可能なシステムを構築することができます。

クラウドサービスには、以上の効果があることから、従来の実導入には、慎重だったマインドも、実際に採用するマインドへと変化が進み、DXを推進する際には、クラウドファーストの考え方で進められ、各企業はその効果を、競争力強化につなげています。

クラウドサービスの注意点

もちろん、すべてクラウドサービスがバラ色というわけではなりません。クラウドファーストは、システムを導入するに際して、クラウドサービスを最優先で検討する考え方であり、検討の結果、適切な場合に、適切なクラウドサービスを選択し、導入するもので、以下のような場合があることにも、注意する必要があります。

要件との仕様が合わない場合がある

クラウドファーストであっても、要件としてオンプレミスが適する場合には、クラウドではなく、オンプレミスを採用します。例えば、インターネット利用を前提としておらず、ローカルネットワークの環境のみで使用することが望ましい場合や、クラウドサービスでは提供されていないハードウェア要件を満たす環境構築が必要な場合、現システムからの移行や、他のサービスやシステムとの連携上、クラウドサービスが適切でない場合など、クラウドファーストで検討した結果として、クラウドサービスが要件と合致しない場合には、オンプレミスを選定することが適している場合もあります。

システムを集約することのリスク

一つのクラウドサービスに集中して構築した場合、そのクラウドサービスにすべて依存することになるリスクを考慮しておく必要があります。クラウドサービスにおいて、重大な障害が発生した場合、そのクラウドサービスの復旧を待つより他手段がなくなります。もし、そのクラウドサービスにシステムを集中して構築していると、その間、システムが停止します。そのようなリスクを考慮した場合に、オンプレミスや、他のクラウドサービスを活用するなど(マルチクラウド)、リスクを分散させる必要があります。

専門人材の確保が必要

大規模なシステムの高度なクラウドサービスを利用するには、それだけの専門知識が必要となるため、対応できる人材の確保や育成が必要となります。

クラウドサービスでは、その運用をクラウドサービス事業者に委ねることになりますが、障害などによりデータが消失するリスクには、自ら備える必要があります。データの外部への漏えいにも備える必要もありますし、アカウントの流出や悪用にも注意する必要があります。監視や運用については、クラウドが提供する高度なサービスを利用することも必要になってきます。クラウドサービス事業者が担う運用は、ハードウェアやソフトウェアの一部であって、クラウドサービスで稼働するシステムとしての運用には、自社にてその体制を構築する必要があり、そのために必要な専門知識を有する人材の確保が必要不可欠です。

ランニングコストが高くなる

オンプレミスに比べて、初期費用は安価に構築できますが、ランニングコストは逆に高くなります。月額で継続的に費用が発生するため、長期的には総コストが必然的に、次第に高くなっていきます。従量課金制であるクラウドサービスは、その使用量によってコストがアップします。オンプレミスのように一時費用を必要とし、投資する際には、その費用を捻出するために、計画的に導入しますが、クラウドサービスの場合には、初期導入費がかからない分、オンプレミスと比べて、安易に導入可能ですが、計画性のない導入は、後にランニングコストとして重くのしかかってきます。そのような事態を招かぬように、計画的な導入、運用が必要です。

まとめ

日本では、2010年が、主要ITベンダーがクラウド戦略に転じる構想を発表した一年であったことから、この年をクラウド元年と呼ばれています。その後、クラウドサービスは拡大し続けるものの、それからおよそ10年が経過した2019年のガートナーの調査と予測によると、日本は、クラウド導入のリーダーである米国に7年以上後れをとっている抵抗国の一つに位置づけられていました。

2020年のガートナーの調査にもある通り、クラウドの必要性を認識しながらも、セキュリティのリスクなどを理由に実際の導入には消極的な風潮も根強く残っていました。それが、2021年の同社の調査によると、クラウドサービスへの支出が前年に比べて大きく伸び、日本におけるクラウドサービスの利用が次のステージに進んだと評しました。

これは、世の中に、DXの推進を推進するという大きな流れが起こったことと、政府がクラウドファーストである「クラウド・バイ・デフォルト原則」を打ち出し、実際にその方針に従ってクラウドサービスの導入を進めたことが、大きな要因となったと考えられます。

クラウドサービスは、初期費用の削減や、導入期間の短縮、運用負担の削減、セキュリティの向上、災害対策に多大な効果を発揮します。クラウドサービスに詳しい専門家を自社に育て、あるいは、外部の専門家をうまく活用し、正しい情報に基づいた適切な判断のもと、クラウドファーストに取り組むことで、企業や組織の市場環境の変化への対応や、競争力の強化を促進します。

[筆者プロフィール]
峯 英一郎
ITコンサルタント。
大手SIer(約18年勤務)を経て、ソフトウェア会社の経営に従事。お客さまの価値最大化につながる新しい受託開発のあるべき姿を追求し続けている。

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